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第九編 新制早稲田大学の発足

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第三章 教旨の改訂と校規の改正

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一 教旨の改訂

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 昭和二十一年に新憲法が制定され、また翌二十二年には「教育基本法」と「学校教育法」が成立し、戦後の学校教育のあるべき姿が示されたので、このような法律との関係、あるいは戦後の新しい思潮との対応において、早稲田大学の「教旨」を改訂すべきではないかという意見が学苑に広まった。二十二年十月二日の理事会はこの問題を取り上げて、維持員会に提案し、同月十五日の維持員会で教旨改訂を検討する委員会の設置が定まった。

 この委員会では大浜信泉・川田鉄弥(高千穂学園創立者。明治三十四―三十七年学苑東洋史講師)・中谷博・吉村正時子山常三郎・市川繁弥・大島正一の各委員が各自の改訂私案を提出した。各委員の改訂案の多くには共通して「真理の探求」という言葉が使用されているが、これは、教育基本法の前文および第一条に「真理と平和を希求する人間の育成を期する」とか「教育は……真理と正義を愛し、個人の価値をたつとび、勤労と責任を重んじ、自主的精神に充ちた心身ともに健康な国民の育成を期して行なわれなければならない」とあるのを承けたのであろう。

 委員会は委員長大浜を中心に各改訂案の検討を行い、最後に二つの委員会案をまとめた。その一は、

一、早稲田大学は、学問の独立を全うし、その自由な研鑽を促進して、真理の探求につとめ、世界の文化の創造と発展に貢献することを本旨とする。

一、早稲田大学は、学問の綜合的発達を期し、その活用の途を講じて、学理と実践の統一(融合)をはかり、人類の福祉の増進に奉仕することを本旨とする。

一、早稲田大学は、人格の完成をめざし、個性ゆたかにして、進取の気象に富み、国家社会の形成者として有能達識な人材を育成することを本旨とする。

というもので、他の一は、従来の教旨から「立憲帝国の忠良なる臣民として」の十四字を削除して新教旨とする、というものであった。

 この結論は二十四年四月十四日の理事会に報告され、理事会の検討を経て翌日の定時維持員会に諮られた。維持員会では、大浜委員長から、委員会の経過報告と、委員会案の説明が行われ、質疑応答ののち、慎重を期するために、浅川栄次郎・大島・難波理一郎・吉田秀人・市川・大浜・吉村各維持員を委員とする小委員会を置いて、更に検討を重ねることとなった。小委員会は四月十九日に開かれ、その結果が二十二日の臨時維持員会に報告された。小委員会の結論は、「新教旨に新しい内容があるのであれば全面的に改正することがよいが、仮に内容が同様であるならば従来の教旨を維持して、特に差支えのある部分だけ一部修正することが望ましい」というものであったが、これがそのまま臨時維持員会で承認され、旧教旨から一部の語句を削除して新教旨とすることが決った。理事会の発議後一年有半を要し、多数の関係者の諤々たる議論の結果としては、大山鳴動して鼠一匹の観があるが、島田総長と、改訂作業の中心にあった大浜が、共に、従来の教旨の要点は学問の独立、学問の活用、模範国民の造就にありとし、これらは新憲法下の新しい大学教育の目的とする人間の育成に合致しており、民主主義国家を発展させるためには個々人の教養を高め、健康を増進させる必要がある以上、従来の教旨は大学教育の目標たり得るものであるから、主権在民を謳った新憲法にふさわしくない一部の語句、すなわち「立憲帝国の忠良なる臣民として」を削除すれば足りると認識していたからであろう(島田孝一『早稲田とともに』五九―六二頁、大浜信泉『総長十二年の歩み』八三―八四頁)。

 「新しき酒は新しき革袋に」ということであろうか、戦後の一つの風潮として、戦前・戦中のものは何でも否定するという流れがあった。教旨の改訂を望んだのも、その表れであったと言えよう。しかし早稲田大学の教旨は「早稲田精神の結晶」であり、「老侯建学の理想」を表明したものである(第二巻六八五頁)。しかもそれは普遍性を持ち、どのように社会が変化しようとも価値が変らないものであった。従って、戦後の混乱期にこのような形で新教旨が定められたのは、真に妥当な措置であったと言えよう。今日、正門を入った左側の植込みに建てられている石碑に刻まれた教旨は、昭和十二年に総長田中穂積が揮毫したものである(第三巻六二九頁参照)が、「立憲帝国」云々の語句は削られずに残っている。これは、大浜によれば、「思想の変遷を知る歴史的文書としてそのままに保存することがかえって記念碑の趣旨に副う所以だと考え」られた(『総長十二年の歩み』八四頁)ためである。

二 私立学校法と学苑

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 昭和二十二年三月三十一日、「教育基本法」と「学校教育法」とが制定され、戦後の教育方針の基底が整った。私立学校については、学校の経営主体の健全な発達を助成し、公共的性格を付与するため、これを民法法人とは別個の特別法人(学校法人)とすること、そのために「学校法人法」を制定すべきこと、私立学校に対する公の助成を可能にするため、公の支配に属さない教育の事業に対する公金の支出を禁ずる憲法第八十九条との調整が必要であること等が、教育刷新委員会の第一回建議以来論じられていたが、一〇五八頁以下に既述した如く、二十二年十二月に至り、日本私学団体総連合会・日本私立大学協会・私立短大協会・中高連の代表がCIEの教育担当官と意見交換を行い、新教育制度下における私学の自主的教育行政について日本私学団体総連合会の意見を至急まとめて報告することになった。そこで、明治大学法学部長松岡熊三郎を委員長、学苑教授大浜信泉を副委員長として二十五名の委員から成る私学法委員会を設け、討議を重ねて成案をまとめ、私学団体総連合会の賛成も得た。しかし、私立学校に対する監督条項の存廃を巡って私立学校側と政府側とが対立し、容易に決着を見なかったが、二十四年十一月に至り、一切の監督条項を削除することに意見が一致し、同月十七日に私立学校法案は衆議院に上程され、次いで文部大臣高瀬荘太郎の提案理由説明が行われたのち十二月十五日に衆参両院を通過し、翌二十五年三月十五日から施行されたのである。

 従来の「私立学校令」に代る「私立学校法」は、私立学校の自主性尊重の建前から、所轄庁の権限を設置、廃止、設置者変更に関するものに限定し、しかもその権限行使に当っては、私立学校の代表者を四分の三以上含む私立学校審議会または私立大学審議会の意見を求めなければならないとし、私立学校の公共性を高めるために、私立学校の設置者を「学校法人」とした。学校法人は、(一)理事五人以上、監事二人以上を定数とし、校長は必ず理事中に加え、役員のうち親族が三人以上含まれてはならない、(二)評議員会(学校の職員、卒業生を含む)を必置機関として、予算、借入金、寄附行為の変更等の重要事項については理事長はその意見を聞かなければならないこととする、(三)学校法人の合併を認める、(四)収益事業を行うことができる、(五)破産および合併の場合を除き、解散した学校法人の残余財産の帰属者を、他の学校法人その他教育事業を行う者に限定する等の制約を受けることが定められた。学校法人は当然、学校経営に必要な基本財産を持つことを要求されるが、大正八年四月施行の「大学令」が定めたような巨額の負担を強いなかったのは、この時代の社会・経済情勢によるのである。

 以上のように定められた学校法人は、民法の規定による法人に比し、右のほかにも、業務や財産の状況を所轄庁から検査を受けることはないという自主性を与えられているが、同時に、教育事業にふさわしい運営方法について必要最小限度の規制を受け、民法法人以上に公共性が強められている。更に、このような公共性を持つゆえに、私立学校法第五十九条によって、国または地方公共団体が私立学校に対し補助金を支出する等の助成を行うことができると規定された。この補助金を受けた学校法人に対し、所轄庁は、業務、会計の状況に関し報告を徴すること、予算について必要な変更を勧告すること、および、役員の解職を勧告することの権限を有するとされているが、国および地方公共団体の私学助成が憲法第八十九条に違反するのではないかとの疑義は、この規定により解消したのである。

 こうして教育制度、あるいは私立学校の基本的性格が整えられるとともに、国や地方公共団体による戦災復興への援助が進められ、かつ昭和二十六年三月以降は「私立学校寄附金課税特別措置法」により国税が免除されるという恩典が与えられた。また新制高等学校の普及により私立大学への進学者が激増して授業料等の収入も増大したため、戦争により大きな痛手を被った私立大学も漸く復旧し、更に新しい発展を見るに至った。

 しかしこの間、前記のような占領政策の変化により、労働運動の抑制と並んで、大学からの共産思想の一掃が企図された。その第一弾は二十四年七月の新潟大学におけるCIE顧問ウォルター・C・イールズ博士による講演であり、博士は大学からの共産主義的教授・学生の追放を勧告した。以後全国の大学に吹き荒れたレッド・パージのために、学問・思想の自由を護るべき「大学の自治」が動揺したのである。また二十六年十一月には政令改正諮問委員会により教育制度改革が答申された。これは、戦後定められた単線型学校体系を戦前の複線型体系に改めることを骨子とし、(一)中学校・高等学校には普通課程と職業課程とを併置し、(二)大学も二年制ないし三年制の専修大学と四年制以上の普通大学とに分け、(三)中学校と高等学校とを合せた六年制の工・商・農各専門学校、高等学校と大学とを合せた五年制または六年制の専修大学を特例措置として認めるなどの方針を打ち出した。この答申は法制的な強制力こそ持たなかったものの、後への影響は大きく、占領時代終了以後の教育体制変革を予示したと言える。

 さて、以上昭和二十八年頃までの政治・社会・経済界の変動、または教育界の動きを略述したが、このような背景の下で、学苑では昭和二十一年施行の校規を改正する作業が開始し、二十四年以降、新しく制定された学校教育法・私立学校法に準拠するため、また組織の改編・整備に合せるため等、付属規程を含め校規改正が数次に亘り行われていくことになる。今日まで行われた各改正の要点を列挙すると、左の如くである。

第一次改正(二十四年) 学校教育法に基づき、新制大学・新制高等学院の設置に伴う改正。平仮名表記と口語体表現を採用。各条に見出しをつける。

第二次改正(二十六年) 私立学校法に基づき、財団法人の学校法人への組織替えに伴う改正。維持員(会)・評議員(会)をそれぞれ評議員(会)・商議員(会)へ改める等大幅な改正。

第三次改正(二十七年) 体育部の体育局への改組に伴う改正。

第四次改正(二十八年) 理事(会)・評議員(会)に関する規則を中心とする改正。

第五次改正(三十五年) 付則を一部削除。

第六次改正(三十七年) 理事の定員を九人以内から十一人以内へ増員。

第七次改正(三十九年) 産業技術専修学校の設置に伴う改正。

第八次改正(四十一年) 社会科学部の新設に伴って評議員を一人増員し、五十八人より五十九人とする。

第九次改正(四十三年) 第二理工学部の廃止に伴う改正。

第十次改正(四十五年) 総長の任期を後任総長の就任時点までに改める。

第十一次改正(四十七年) 予算・決算の処理方法細目の改正。

第十二次改正(四十八年) 第二文学部を除く第二学部の廃止に伴う改正。

第十三次改正(四十九年) 総長・理事(会)・評議員(会)等に関する大幅な改正。

第十四次改正(五十年) 学苑所在地の住居表示変更に伴う改正。

第十五次改正(五十三年) 各種学校の専修学校への変更に伴う改正。

第十六次改正(五十四年) 専門学校の学科課程新設に伴う改正。

第十七次改正(五十七年四月) 本庄高等学院の設置に伴う改正。

第十八次改正(五十七年十月) 評議員定数の改正。

これら十八次に亘る改正のうち第五次以降の校規改正は次巻に譲り、本章では第四次までの改正を取り上げ、特に重要と思われる第一次、第二次、第四次の改正について詳述する。

三 昭和二十四年の校規改正(第一次改正)

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 第一次校規改正については、昭和二十四年四月七日の理事会において、池原義見理事から「校規及び同附属規程改正起草委員会委員に関する件」の説明があり、委員会設置が理事会の承認を得た。すなわち、校規改正に関してはこれ以前から話合いが行われていて、この理事会で改正推進の方向で意見の一致を見たと察せられるが、四月以前の経緯については資料が欠けている。理事会でまとめられた原案は同月十五日の定時維持員会に上程され、総長から、

この四月から新制学部、高等学院を設置致しましたので、これに伴つて校規を初め同附属規程の改定を必要と致します。この改正は形式的なものであるとも考えられますが、然もこれ等の規程は本学園の基本規程でありますので、これを改正致しますには、学内各関係を網羅して、その代表者によつて改正する様に致すことが適当であると考える次第であります。

との提案理由の説明があって、審議に入り、理事会原案に若干の修正を施し、維持員中より五名、評議員中より五名、学部および付属学校より十五名(学部・付属学校各一名、教育学部二名)、主事会より二名、計二十七名の構成で委員会を設置することが決定した。そして各推薦母体から推薦された委員の互選により、委員長に黒田善太郎、副委員長に大浜信泉が就任した。学校教育法に沿った「形式的な改訂」であったためか、その後の委員会の審議は円滑に進められ、一ヵ月ほどのうちに原案が作成され、五月十九日理事会の議を経て、同月二十一日の維持員会に提案され、委員長の経過説明と副委員長の逐条説明ののち審議に入り、一部修正の上決定を見た。次いで文部省に認可を申請した結果、五月二十五日認可とともに新校規が施行されることになった。

 新校規を二十一年五月制定の旧校規(四〇八―四一三頁参照)と比較すると、字句や条番号の変更はあるが内容は同じもの、内容を改めたもの、条文の一部または全部を追加あるいは削除したものに分けられる。

 字句変更で最も顕著なのは、この校規から平仮名表記・口語体となった上、条ごとに「第一条(本大学の名称)」の如く見出しを付したことである。法文を平仮名表記・口語体にする試みは、大正八年原敬内閣の下で実施され、文部大臣中橋徳五郎が口語文の訓令を出したことがあるが、その試みは線香花火の如くに終り、以後旧態依然たる片仮名表記・文語体の堅い法文が罷り通っていた。しかし、戦後になり日本国憲法が初めて平仮名表記・口語体で制定されるに至って、漸くこれが定着し、一般の趨勢となったので、我が校規にもこれが取り入れられ、「本財団法人ハ早稲田大学ト称ス」(旧校規第一条)とあったものが「本財団法人は、早稲田大学という」(新校規第一条)に改められたように、各条に亘って表記法の改訂が行われたのである。

 内容の改正に及んだ条文では、先ず第二条(本大学の目的)を挙げなければならない。旧校規第二条に「本大学ハ人材ノ育成、学術ノ研究、教授及普及ヲ目的トス」とあったのが、「本大学は真理の探求と学理の応用につとめ、学芸を教授し、その普及をはかり、有能な人材を育成することを目的とする」と改められた。その主要な改正点は、従来「学術の研究」とあったところを改めて「真理の探求と学理の応用」という語句を用いたことである。学校教育法第五十二条は、大学設立の目的を、「大学は、学術の中心として、広く知識を授けるとともに、深く専門の学芸を教授研究し、知的、道徳的及び応用的能力を展開させることを目的とする」と規定している。早稲田大学といえどもこの法の規制を受けることは言うまでもないが、同時に、教旨に明記された学問の独立を全うすること、学問の成果を実際に応用すること、および、その任に当るべき模範国民を造就することという学苑建学の精神は、継承していかなければならない。校規第二条の起草に際しこの辺りに苦心したと思われるが、その成文を読むと、この二つの要件がよく満たされていると言える。ここには「学問の独立」という語句は用いられていないが、「学問の独立」とは「学問の自由討究を主とし、常に独創の研鑽に力め、以て世界の学問に裨補」することだという学苑教旨を理解すれば、「学問の独立」の趣旨は十分に生かされていると言えよう。なお、従来見なかった「真理の探求」という言葉が使用されている点については、既述の如く、教育基本法の影響が認められる。

 次に、維持員を除名する際の条件を緩めたことである。旧校規第二十条第五号に「維持員ノ除名ハ維持員五分ノ四以上ノ同意アルコトヲ要ス」とあったのを、新校規第二十六条では「維持員の除名は、維持員の三分の二以上の同意がなければ、これを行うことができない」と定めている。

 しかし主眼は第七章であった。その全文は次の通りである。

第七章 学部、大学院、附属学校及び附属機関

第三十条(学部及び大学院の設置)

本大学は、学校教育法に基いて左の学部及び大学院を設置する

(イ)昼間に授業を行う学部

一、第一政治経済学部 二、第一法学部 三、第一文学部 四、教育学部 五、第一商学部 六、第一理工学部

(ロ)夜間に授業を行う学部

七、第二政治経済学部 八、第二法学部 九、第二文学部 十、第二商学部 十一、第二理工学部

第三十一条(教授会)

1 各学部に当該学部に関する重要事項を議するため教授会を置く

2 教授会の組織その他については、別の規程によつてこれを定める

第三十二条(附属学校及び附属機関)

本大学に附属学校及び研究所、図書館、博物館等の附属機関を置く

第三十三条(学部長会議)

1 学部、附属学校及び附属機関には別に定める規程に従い、それぞれ一名の長を置き、これを以て学部長会議を組織する

2 学部長会議は、別に定める規程に従い、研究及び教育に関する重要事項を審議する

第三十条は新制大学発足に伴う字句修正である。第三十一条は、旧校規第二十五条では簡単に「各学部ニ教授会ヲ設ケ其ノ学部ノ教授ヲ以テ之ヲ組織ス」と規定されていた教授会の性格を明確化したもので、「当該学部に関する重要事項を議する」機関と示されている。これは一見、昭和四年改正校規(四一二頁参照)への逆戻りと考えられるかもしれないが、大学の自治を保証する学校教育法第五十九条を反映させた改正なのである。第三十二条は旧校規第二十六条と同じ内容であるが、第三十三条では従来の部科長会(旧校規第二十七条)を学部長会議に改め、同時にその役割を「研究及び教育に関する重要事項を審議する」と明示している。校規改訂に伴い教授会と学部長会議の性格・権限が明確にされたことは、頗る重要な意味を持つと考えられる。ただし旧校規第二十八条にあった「第二十五条ノ規定ハ附属学校ニ之ヲ準用スルコトヲ得」という規定は削除されている。これは、学校教育法で認められた教授会の自治権が、大学以外には認められないためであった。

 その他、新設条文で注目すべきものとして三点指摘できよう。第一点は、任期満了以前に総長の欠けたときに後任総長の任期を前任者の残余期間としたこと(第七条第二項)、第二点は、常務理事でない理事に総長の職務を代理させることができるようにしたこと(第十三条第四項)、そして第三点は理事会に関する規定で、新校規は、

第十条(理事会)

1 理事は理事会を組織し、本大学の校務を執行し、且つ本大学運営の責に任ずるものとする

2 総長は、理事長として理事会を招集し、その議長となる

3 理事会は、三分の二以上の理事の出席がなければこれを開くことができない

4 理事会の決議は、出席した理事の過半数による

と定めている。旧校規には全く欠けていた規定で、この新たな制定により、理事会の権限・責務・運営方法が明確にされたと言えよう。また、総長が理事長を兼ねることが初めて明記されたことは注目に値する。学苑では、学校教育法第五十八条で「校務を掌り、所属職員を統督する」と定められた学長と、財団法人経営の最高責任者である理事長とを、一人に兼ねさせるが可か、あるいはこれを二人に分けるべきかにつき、議論が沸騰したのであるが、財団法人早稲田大学の主たる事業は「教育」にあって、校務の運営と財団法人の運営とは決して離ればなれにあるものではないから、一人の総長を置いて学長と理事長とを兼務させるのが望ましい形態であるとの結論に達したのである。

 他方、旧校規から削除されたのは、前記の旧校規第二十八条の全文と、旧校規第三十四条の「主務官庁ノ認可ヲ経テ」という字句である。これは、学校教育法において大学が文部大臣の所轄とされたからである。

 新制大学発足に当り改訂された新校規はおよそ以上のようなものであって、内容的には新学部・大学院の設置のほか教授会・学部長会議・理事会の性格を明らかにし、その権限と責任ならびに運営方法を確定したところに、その特色があったのである。なお、この校規改正に応じ、総長選挙規程、維持員会規程、評議員会規程などの関係規程の改訂も行われたが、同様のことは第二次校規改正以後にもあったので、それらの変遷は次巻に譲ることとする。

四 昭和二十六年の校規改正(第二次改正)

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 昭和二十五年三月施行の「私立学校法」は、私立学校の設置者に「その設置する私立学校に必要な施設及び設備又はこれらに要する資金並びにその設置する私立学校の経営に必要な財産を有」する「学校法人」であることを要求し(第二十五条)、目的、名称、役員、会計、解散等を定めた寄附行為について文部大臣の認可を得なければならない(第三十条)と定めた。二十六年三月施行の「学校法人早稲田大学校規」は、学校教育法を根幹に据え、私立学校法の要件を満たすための改正である。

 校規改正の経緯を見ると、先ず昭和二十五年八月三十一日の理事会で改正に関する件が決議され、私立学校法に基づき財団法人から学校法人への組織変更と、維持員五名、評議員五名、理事三名、各学部と各付属学校各一名、教育学部二名、主事会二名の計三十名で構成される校規及び同附属規程改正案委員会の設置とが決定された。本件は九月十五日の定時維持員会で承認され、十月四日に開かれた第一回委員会では、委員長に黒田善太郎、副委員長に外岡茂十郎が互選され、更に学外校友委員から二名、学内教職員委員から四名が選ばれて小委員会が発足した。委員会の設置に当って島田総長は、私立学校法成立に伴い財団法人の組織を変更して学校法人とするための校規改正および同付属規程改正である旨説明したが、第一回委員会では、法人組織変更のみにとどまらず、改正が適当と思われる点についても改正案を起草してよいかという質問が出た。理事会はもとよりこれに賛成であったが、十月四日に開かれた維持員会でも、「但し現行校規は慎重な研究の下に作られているから原則は変更せず細部の点について改正すべきものである」との条件付で賛成を得た。そこで委員会はその方針で作業を進めることとなり、十月四日、同十八日、十一月四日、同十八日の四回、小委員会は十月十五日、同二十八日、同三十一日、十一月七日、同十六日、十二月八日の六回に亘って開かれ、漸く原案の作成を終った。その成案は十二月十五日の定時維持員会に上程され、島田総長は次のように趣旨を説明した。

改正案は、従来の校規の基本原則を尊重しつつ、私学法に規定してあります「寄附行為に規定すべき事項」、「理事、監事、評議員の選任のわく」、「理事、監事、評議員の職務」、「理事会、評議員会の議決」等についてこれを校規にもり込んだものであります。

更に、学部長会議に関する規約は学則で制定することとして校規から削除したこと、および理事・評議員の任期を一様にするため現任の学部長・付属学校長・体育部長には自発的に辞任するよう懇請するという委員会における申合せを報告した。そして審議の結果、

一、校規第五十三条の総長、理事、監事及び評議員の選任は、昭和二十六年九月三十日までに、これを行うものとする。

二、理事及び評議員の任期を一様にするため、前項の理事及び評議員の選任を行う前に、現在の学部長、学校長及び体育部長には自発的に辞任するよう懇請する。

三、学校法人早稲田大学校規は、所轄庁の認可を要するに付、この認可を得るに必要な場合は、本維持員会の議決した校規の趣旨に反しない限り、校規の字句を一部修正することを理事会に一任する。

という付帯決議を付した上で、新校規が承認された。このときの改正校規は現在の校規の原型であるので、左にその全文を掲げよう。

学校法人早稲田大学校規(寄附行為)

第一章 総則

(名称)

第一条 この法人は、学校法人早稲田大学という。

(事務所)

第二条 この法人は、その事務所を東京都新宿区戸塚町一丁目六百四十七番地に置く。

(目的)

第三条 この法人は、大学、高等学校その他研究施設を設置し、真理の探究と学理の応用につとめ、学芸を教授し、その普及をはかり、有能な人材を育成することを目的とする。

(設置する学校の名称)

第四条 この法人は、前条に規定する目的を達成するため、左に掲げる学校を設置する。

一 早稲田大学

二 早稲田大学高等学院

三 早稲田大学工業高等学校

(公告の方法)

第五条 この法人が法令の規定によつてなすべき公告は、早稲田大学の掲示場に掲示して行う。

第二章 管理

第一節 総長

(総長制)

第六条 この法人に一人の総長を置く。

(総長の職務)

第七条 総長は、この法人の理事長とし、且つこの法人の設置する大学の学長とする。

(総長の選挙)

第八条 総長は、別に定める総長選挙規則に従い、総長選挙人会においてこれを選挙する。

(総長の任期)

第九条 総長の任期は、これを三年とする。但し、再選されることができる。

2 任期の満了前に総長が欠けたときに、その後任として選挙された総長の任期は、前任者の任期の残存期間とする。

(名誉総長)

第十条 この法人は、評議員会の議を経て、名誉総長を推挙することができる。

第二節 理事

(理事の定数及び理事長)

第十一条 この法人に七人の理事を置き、うち一人を理事長とする。

2 総長は、理事長としてこの法人の業務を総理し、この法人を代表する。

(理事会)

第十二条 理事は、理事会を組織し、この校規に基き、この法人の業務を執行し、且つこの法人運営の責に任ずるものとする。

2 総長は、理事会を招集し、その議長となる。

3 理事会は、三分の二以上の理事の出席がなければこれを開くことができない。

4 理事会の議事は、理事の過半数で決する。

(理事の選任、その任期、再選)

第十三条 理事は、総長である理事を除き、評議員会がこれを選任する。

2 前項の規定によつて評議員会が理事を選任する場合は、左の各号による。

一 学部長及び学校長のうちから選任する者 二人

二 評議員(学部長及び学校長である者を除く。)のうちから選任する者 二人

三 総長の推薦する者のうちから選任する者 二人

3 理事の任期は、これを三年とする。但し、再選されることができる。

4 補欠によつて選任された理事の任期は、前任者の任期の残存期間とする。

(理事の選挙)

第十四条 理事の選任は、選挙によつてこれを行う。但し、出席者全員が同意したときは、他の方法によることができる。

2 前項の選挙は、単記無記名投票によつてこれを行い、有効投票の最多数を得た者について、順次二人までを当選人とする。但し、十票以上の得票がなければならない。

3 前項によつて当選人が定数に達しない場合は、十票未満の三位までの得票者について、再投票を行い補充する。

4 当選人を定めるに当つて、得票数の同じ者があるときは、くじでこれを定める。

(任期の伸長)

第十五条 総長である理事を除き、理事の任期が満了した場合に、次期の理事の選任がないときは、その選任のあるまで、前の理事の任期は当然に伸長されるものとする。

(総長の職務の代行)

第十六条 総長に事故があるとき、又は総長が欠けたときは、あらかじめ総長の指名する理事が臨時に総長の職務を代理し、又は総長の職務を行う。

(常務理事)

第十七条 総長は、評議員会の承認を経て、理事のうちから一人又は数人の常務理事を嘱任することができる。

2 常務理事は、総長を補佐して業務を掌理する。

3 数人の常務理事があるときは、その分担する業務の範囲は、総長がこれを定める。

(理事の解任)

第十八条 総長である理事を除き、理事を解任するには、評議員会の議決によらなければならない。

(特別議決)

第十九条 前条の議決は、評議員三分の二以上が出席し、出席した評議員の三分の二以上の同意をもつてこれを行う。

(理事の退任)

第二十条 理事は、左の事由によつて退任する。

一 任期の満了

二 辞任

三 第十三条第二項第一号及び第二号によつて選任された理事が、学部長、学校長又は評議員の職を退いたとき

四 学校教育法第九条各号に掲げる事由に該当するに至つたとき

第三節 監事

(監事の定数)

第二十一条 この法人に二人の監事を置く。

(監事の職務と権限)

第二十二条 監事は、この法人の財産の状況及び理事の業務執行の状況を監査する。

2 監事は、監査の結果不整の点を発見したときは、これを評議員会又は所轄庁に報告しなければならない。この場合には、監事は、総長に対して評議員会の招集を請求する。

3 監事は、この法人の財産の状況及び理事の業務執行の状況について、理事に意見を述べる。

(監事の選任、任期、再選、任期の伸長、解任及び退任)

第二十三条 監事は、評議員会において、評議員(この法人の教職員たる評議員を除く。)のうちから、これを選挙する。

2 第十三条第三項及び第四項(任期及び再選)、第十四条(選挙)、第十五条(任期の伸長)、第十八条(解任)、第十九条(特別議決)並びに第二十条第一号、第二号及び第四号(退任)の規定は、監事にこれを準用する。

第四節 評議員及び評議員会

(評議員の定数)

第二十四条 この法人に四十五人の評議員を置く。

(評議員の選任)

第二十五条 評議員となる者は、左の各号に掲げる者とする。

一 各学部長、体育部長及び各学校長 十四人

二 総務部長又はこれに相当する者 一人

三 前各号以外のこの法人の教職員たる商議員のうちから互選された者 十人

四 この法人の教職員以外の商議員のうちから互選された者 十五人

五 評議員会において、この法人の教職員以外の校友のうちから推薦された者 五人

(評議員会の職務)

第二十六条 評議員は、評議員会を組織し、左に掲げる事項について議決する。

一 予算、決算、借入金(当該会計年度内の収入をもつて償還する一時の借入金を除く。)及び重要な資産の処分に関する事項

二 学部、大学院、学校その他重要施設の設置及び廃止

三 校規の変更並びに規則の制定及び改廃

四 合併及び解散

五 その他この法人の運営に関する重要事項

2 評議員会は、この法人の業務若しくは財産の状況又は理事、監事の業務執行について、理事、監事に対して意見を述べ、若しくはその諮問に答え、又は理事、監事から報告を徴することができる。

(評議員会の招集)

第二十七条 評議員会は、総長がこれを招集する。

2 総長は、評議員総数の三分の一以上の評議員から会議に付議すべき事項を示して評議員会の招集を請求された場合及び第二十二条第二項の規定によつて監事から評議員会の招集を請求された場合には、その請求のあつた日から二十日以内に、これを招集しなければならない。

(評議員会長)

第二十八条 評議員会に、評議員の互選によつて一人の評議員会長を置く。

2 評議員会長の選挙は、無記名投票による。但し、有効投票の過半数を得なければならない。有効投票の過半数を得た者がないときは、二位までの得票者について、再投票を行う。

3 評議員会長は、評議員会の議事を整理する。

4 会長に事故があるときは、出席評議員の互選によつて会長の職務を臨時に代理する者を定める。

(定時評議員会)

第二十九条 定時評議員会は、毎月一回これを招集する。

2 定時評議会を招集するには、会日より五日前に各評議員にその通知を発しなければならない。この通知には、会議の目的とされる事項を記載しなければならない。

(臨時評議員会)

第三十条 臨時評議員会は、総長が必要と認めたとき、又は第二十七条第二項の請求があつたときに、これを招集する。

2 前条第二項の規定は、臨時評議員会の招集通知にこれを準用する。但し、同項中「五日前」とあるのは、「二日前」と読み替えるものとする。

(評議員会の議決)

第三十一条 評議員会は、評議員の過半数の出席がなければ、その議事を開き、議決をすることができない。

2 評議員会は、あらかじめ通知された事項に限つて議決することができる。但し、出席者全員の同意があるときは、この限りでない。

3 評議員会の議事は、出席評議員の過半数で決し、可否同数のときは、会長の決するところによる。

4 会長は、評議員として議決に加わることができない。

5 評議員でない理事は、評議員会に出席して意見を述べることができる。

(評議員会において行う選挙)

第三十二条 評議員会において行う選挙は、別に定めがある場合のほかは、連記無記名投票によるものとする。但し、出席者全員が同意したときは、他の方法によることができる。

(評議員及び評議員会長の任期、再選及び任期の伸長)

第三十三条 第十三条第三項及び第四項(任期及び再選)並びに第十五条(任期の伸長)の規定は、評議員及び評議員会長にこれを準用する。

(評議員の退任)

第三十四条 評議員は、左の事由によつて退任する。

一 第二十条第一号、第二号及び第四号に掲げる事由

二 第二十五条第一号及び第二号によつて選出された評議員が、その職を退いたとき

三 第二十五条第三号によつて選出された評議員が、この法人の教職員の地位又は商議員の職を退いたとき

四 第二十五条第四号によつて選出された評議員が、商議員の職を退いたとき。但し、引き続き商議員に選任された場合を除く

五 除名

(評議員の除名)

第三十五条 評議員の除名は、評議員の三分の二以上の同意がなければ、これを行うことができない。

(評議員の補充)

第三十六条 評議員のうち、その定数の五分の一をこえる者が欠けたときは、補充しなければならない。

第五節 商議員及び商議員会

(商議員の定数及び選任)

第三十七条 この法人に若干人の商議員を置く。

2 商議員は、別に定める商議員会規則に従い、これを選任する。

(商議員の任務と権限)

第三十八条 商議員は、商議員会を組織し、この校規及びこれに基く規則に定めた事項を行うほか、学事及び会計の報告を受け、諮問事項について審議し、必要に応じてその議決をもつて総長に建議することができる。

(商議員の任期、再選、任期の伸長、退任及び除名)

第三十九条 第十三条第三項及び第四項(任期及び再選)、第十五条(任期の伸長)、第三十四条第一号及び第五号(退任)並びに第三十五条(除名)の規定は、商議員にこれを準用する。

第六節 資産及び会計

(財産目録)

第四十条 この法人の資産は、財産目録にこれを掲げなければならない。

(資産の管理及び処分)

第四十一条 この法人の重要な資産の管理及び処分は、評議員会の議決に従つてこれを行う。但し、基本財産の処分は、出席した評議員の三分の二以上の同意がなければ、これを行うことができない。

(会計年度)

第四十二条 この法人の会計年度は、四月一日に始り、翌年三月三十一日に終るものとする。

(予算)

第四十三条 この法人の会計は、これを基本勘定と経常勘定との款に区別し、予算は、更に各款を項及び目に細分してこれを編成し、三月の評議員会に提出して、その議決を経なければならない。

(決算)

第四十四条 決算は、毎年度末にこれを行い、財産目録、貸借対照表及び各勘定の計算書を作成し、監事の監査を経た上で、五月の評議員会に提出して、その承認を得なければならない。

(予算及び決算の報告)

第四十五条 予算、決算に関する財産目録、貸借対照表及び各勘定の計算書は、毎年定時商議員会にこれを報告しなければならない。

(会計規則)

第四十六条 この法人の会計は、この校規に定めるもののほか、評議員会の議決をもつて定めた会計規則によつて、これを処理する。

第三章 解散

(残余財産の帰属)

第四十七条 この法人が解散した場合における残余財産は、評議員会の指定する学校法人その他教育事業を行う者に帰属する。

第四章 校規の変更及び規約の制定

(校規の変更)

第四十八条 この校規を変更するには、評議員会の議決によらなければならない。

2 第十九条(特別議決)の規定は、前項の議決にこれを準用する。

(規約の制定)

第四十九条 この法人は、左の規約を設ける。

一 規則

二 規程

三 細則

2 規則は、評議員会の議決を経て、規程は、理事会の議決を経てこれを定め、細則は、各学部、各学校、附属の各機関及び本部の各部がこれを定める。

附則

(施行期日)

第五十条 この校規は、組織変更の登記の日から施行する。

(旧制学校に関する経過規定)

第五十一条 この法人は、第四条に掲げる学校のほか、当分の間、学校教育法第九十八条の規定による早稲田大学、早稲田大学専門部、早稲田大学高等師範部及び附属早稲田高等工学校を存置する。

(組織変更当初の役員)

第五十二条 この法人の組織変更当初の役員は、当分の間、従前の校規によつて選任された役員とする。

(総長、理事、監事及び評議員の選任)

第五十三条 組織変更後のこの校規による総長、理事、監事及び評議員の選任は、すみやかに、これを行わなければならない。

(評議員及び商議員に関する経過規定)

第五十四条 この校規施行の際、現に維持員である者は、前条によつて評議員が選任されるまで、この校規による評議員とみなす。

2 この校規施行の際、現に評議員である者は、この校規による商議員となる。その任期は、昭和二十七年九月三十日までとする。

 昭和二十六年二月十五日文部大臣認可、同年三月一日登記の新校規を、二十四年改正校規と比較して先ず気付くのは、改正経過からも窺えるように、改正が全般に及び、意外に大幅なものになったことである。

 大きく変化したのは、従来の「財団法人早稲田大学校規」において法人組織の規定と教学関係の規定とがややもすると混在する傾向があったのを、新校規は法人組織の規定に絞った点である。従って旧校規第七章(一〇七六―一〇七七頁参照)は全文削除された。と同時に、従来は財団法人早稲田大学が高等学院および工業高等学校を付属学校として抱えていたのを、新校規第四条に見られる如く、早稲田大学という名称を持つ学校法人が、大学・高等学院・工業高等学校の三校を設置する形になった。因に、後二者の校名から「付属」の二字を削除したのは、学校法人登記に先立つ二十五年十二月のことである。また、法人組織と直接には結びつかない教授会に関する規定はすべて、それぞれの学部・学校の規則中に掲げられることになり、学部長会議については別に「学部長会規程」が制定された。

 私立学校法第三十五条に定める学校法人の理事長は、学苑においては、学校教育法第五十八条に定める大学の学長をも兼ね、「総長」と称している。この形態は財団法人時代と変らない。七人の理事については選挙制を明記したが、選挙制は私立学校法の定めにはなく、学苑独自の判断である。新校規第二章第四節「評議員及び評議員会」は旧校規第五章「維持員及び維持員会」に相当し、私立学校法第四十一―四十四条の表現に倣って名称を変更したのである。定員は四十五人と定められ、従来に比し十人増員されている。旧校規では学内維持員二十人以内・学外維持員十五人以内であったのが、新校規は選任母体を五種に分類し、各学部長・体育部長・各学校長と、総務部長またはこれに相当する者とが自動的に評議員となり、学内評議員が二十五人、学外評議員が二十人となった。これによる後者の議決権の増大は僅少である。

 第五節「商議員及び商議員会」は旧校規第六章「評議員及び評議員会」に相当する。名称の変更は、旧維持員と旧維持員会を法律に従ってそれぞれ評議員、評議員会と改めたので、旧評議員および旧評議員会も従来とは異る名称を採用せざるを得なくなったためであり、「評議」とほぼ同じく「互いに相談する」との意味を持つ「商議」という語が選ばれたのである。商議員・商議員会に関する規定は私立学校法には存在せず、学校法人に不可欠の組織ではない。しかし明治三十六年制定の定款に、本学の事業を監督・助成する機関として評議員会を定めた(第二巻三五〇頁参照)とき以来、本学関係者および校友の中から比較的多数の人々を選任して本学に協力してもらうための機関の設置が本学の伝統となっており、その伝統に従ってこれが設けられたのである。従って商議員会の性格は旧評議員会と変っていないが、商議員の選出方法には旧評議員選出方法と相違している点がある。すなわち、新たに定められた商議員会規則では、学内選出商議員数が高等工学校廃止に伴い四人減じて百十七人となり、特別銓衡委員が選定する学内選出評議員候補者数を半減して十五人以上に改め、評議員選挙の際に学内商議員が連記できる被選挙人数を十人から五人へ半減している。これらは、学苑運営に校友の意見を以前よりも反映させようとする措置に外ならなかった。

 このように昭和二十六年の校規改正は、構成や字句の訂正を含むかなり大規模なものであり、法人定款としての校規の体裁は大いに整備されたのである。

五 昭和二十八年の校規改正(第四次改正)

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 新制大学が軌道に乗り、学校法人が発足した翌昭和二十七年、法人役員の任期延長および増員を目的とする校規部分修正の議が出たので、四月二十二日の定時評議員会において十五人で構成される校規改正案起草委員会が設置され、校規の検討に着手した。この委員会が提出した改正案は六月十七日の定時評議員会に諮られたが、主要な改正点は、総長の任期を一年延長して四年とし、理事の定数を七人から十一人以内へ増やすとともに常務理事三人以内を置く旨明記し、併せて、他の法人役員の増員を狙っているものであった。とりわけ、大正十二年の校規改正以来七人に据え置かれてきた理事の増員案を提出したのは、大正十二年から昭和二十七年までの間に、非常勤教員を含み助手を含まない教員実数が約三百三十人から約八百二十人へ、職員数が二百五十人前後から三百二十人前後へ、工手学校と工業高等学校を含む学生・生徒総数が約一万三千七百人から約二万七千七百人へと、学苑の膨張を見たのが、背景となっている。しかし当日の定時評議員会は紛糾して結論を出すに至らず、改めて原案につき教授会と主事会の考えを聴取したのち再度協議することになったが、同月三十日に開かれた臨時評議員会の大勢は現状維持に傾き、体育部と体育会との合併により「体育部」の名称を「体育局」に改めたほかはすべて決議を見送ったのである。

 しかし、激務に耐えかねて理事増員を固執する理事会は、翌二十八年四月二日開催の新年度第一回理事会で、「全学的委員会をおいて再検討することとし、次回評議員会に提案する」旨申し合せた。四月十五日の定時評議員会は改正の要否につき意見を交換したにとどまり、同月二十五日に改めて臨時評議員会を開いて審議することになった。評議員会のこのような慎重な態度ならびに前年提案の改正案が一部を除き流産に終った経緯に鑑み、理事会は一層綿密な準備の必要を痛感し、四月二十三日の第四回理事会で、「校規改正の必要を感ずるが、改正の内容は重要なことであるから全学的委員会で研究することとし、かかる委員会をおかれたいという態度で評議員会に臨む」ことを申し合せて、三十人より成る委員会構成案ならびに理事からの委員候補者(反町茂作・安念精一・外岡茂十郎)を決めた。

 二十五日の臨時評議員会は理事会提案の校規改正の件を正式に取り上げることにしたが、理事会作成の改正要綱につきあらかじめ評議員会の承認を得、しかるのち、「校規及び同附属規則を検討し、その結果を評議員会に諮り、評議員会の決定した結論に基いて、改正案を起草するため、校規及び同附属規則改正委員会を置く」という二段構えの手続が承認された。同委員会の構成は、学外評議員八人、学外商議員七人、理事三人、各学部・高等学院・工業高等学校各一人、大学院文科系・大学院工科系各一人、主事会二人の計三十五人で、理事会案より五人増加している。理事と評議員の定員増、法人役員の任期延長等を骨子とする委員会作成の改正要綱案は、左掲の「理事会規程の制定に関する建議」とともに、六月十五日の定時評議員会に上程され、同月二十四日の臨時評議員会で審議された結果、一部訂正の上、ほぼ原案通り承認された。

理事会規程の制定に関する建議

理事会は、大学管理の中枢機関であるから、大学の規模の拡大と校務の激増に伴いその陣容を強化するとともに、その運営の円滑且つ効率化をはかることが緊要である。また理事会は、大学の発展、運営その他業務の執行に関する重要事項について、研究、企画及びその執行の基本方針の決定に主力を傾注することが望ましく、そのためには常任理事制を確立し、日常の常務の執行は、常任理事その他の部長にこれを委ね、理事会を可及的に事務的の負担から解放するように工夫する必要がある。なお、このことは、事務の遂行を促進し、且つ責任の所在を明確にする上からもきわめて重要である。

ところで、校規の中に理事会に関する細則を規定することは適当でないので、別に理事会規程を制定して、前述の趣意にそうて理事会の在り方を明確にし、その体制を確立されることを要望する。ちなみに、理事会規程の制定にあたつては、すくなくとも左の諸点が考慮されなければならないものと考える。

一、常任理事については、その適任者をえがたい場合を考慮し、校規の上ではその設置を任意制としてあるが、理事会規程においてはこれをおくことを原則とし、且つその職務権限を明確にすること。

二、常任理事を二人以上おく場合について、その権限の競合する事項の処理方針を明定すること。

三、常任理事は、常勤職とし、学部長その他の事務職の兼務を禁ずること。但し任命による附属機関の長又は本部の部長の職を臨時に兼ねる場合及び教員としての職を兼ねる場合については、例外を認めること。

四、教員が常任理事となつた場合は、理事の職務に重点をおくべきであり、従つてその担任授業時間数は一週六時間を限度とすること。

五、常任理事でない理事が業務の一部を担当することを認め、そして業務担当理事は、その担当する業務については、常任理事と同一の権限を有するものとすること。

六、監事は理事会に出席して、発言することができる旨を明定すること。

七、理事会の招集、決議の方式、議事録その他理事会の運営に関する細則を規定すること。 以上

 こうして基本原則である「校規及び同附属規則改正要綱」に沿って改正されることが決定したので、評議員会の委嘱により校規及び同附属規則改正委員会が作成した改正案は、七月十五日の定時評議員会で審議・承認され、九月二十四日文部大臣の認可を受け、法人役員全員が改選される翌二十九年九月一日より施行されることになった。

 主要改正点は、総長と理事の任期を四年に延長した反面、監事の任期を二年に短縮し、理事を九人以内に、評議員を五十七人に増員するとともに、その選任方法を次のように変更したことである。

第十三条 理事は、総長である理事を除き、評議員会において、これを選任する。

2 評議員会における理事の選任は、左の区分による。

一 この法人の教職員のうちから選任する者 三人以内

二 この法人の教職員でない評議員のうちから選任する者 二人以内

三 総長の推薦する者のうちから選任する者 三人以内

第二十六条〔旧第二十五条〕評議員は、左の各号に掲げる者とする。

一 総長、各学部長、体育局長及び各学校長 十五人

二 庶務部長又はこれに相当する者 一人

三 各学部の教授会において、その本属の教授及び助教授のうちから選出された者(各一人)合計十一人

四 主事会において、職員である商議員のうちから選出された者 二人

五 この法人の教職員でない商議員のうちから互選された者 十八人

六 評議員会において、この法人の教職員でない校友のうちから推薦された者 十人

 学内理事の要件から学部長・学校長の資格が消え、評議員会についても教授会と主事会の意見が反映されるように修正して、旧校規よりも幅広い選任基盤を採用した一方において、総長は評議員会の承認を経ることなく常任理事を嘱任できることとし、学科配当の一部変更や事務機構の改革その他呼称の変更等に伴う規則の軽微な改正は理事会の専決事項に改めて、学苑の膨張に機敏に対処できるように手直ししたのである。因に、大正十二年五月より置かれてきた常務理事の名称が常任理事に改められたのは、この改正においてである。前記「理事会規程制定に関する建議」で原則として事務職の兼務を禁じ、「常勤職」とすることが主張されており、常勤という意味で、例えば国際連合の安全保障理事会に常に代表を送っている国を「常任」理事国と呼んでいるように、新名称を「常任」理事としたのであろう。なお、右の建議にも拘らず、「理事会規程」は制定されなかったが、以後の理事会の組織・運営は、常任理事たる教員の担当授業時間数の限度などの面で空洞化しているところがないではないものの、ほぼ建議の趣旨に沿って行われ、今日に及んでいる。