Top > 総索引年表 > 法人略史および歴代役員 四

法人略史および歴代役員

ページ画像

四 戦後民主化と総長選挙制採用

ページ画像

 昭和二十一年、日本中に渦巻いた民主化の潮流に乗って、戦後初の校規改正が行われた。五月十五日に発効した新校規は総長公選を主眼とする画期的なものとなった。すなわち、理事の互選を以てした旧校規の総長とは面目を一新して、選挙のたびごとに先ず九十名の選挙人を選出し、これが総長選挙人会を組織して三年任期の総長を選ぶ間接選挙制が採られたのである。選挙人の選出区分は学外維持員十五名、学外評議員十五名、教員五十五名、職員五名、すなわち学外者と学内者との比率は一対二とされ、単記無記名投票により過半数の四十六票以上の得票者を総長とするものであった。ただし、総長の被選挙資格については何らの制限も設けられなかったため、選挙人はいかなる人物にも票を投じることができた。この年六月十日に実施された第一回総長選挙では津田左右吉が当選したけれども、津田は総長受諾を固辞したので、二十九日に総長選挙人会を再招集して選挙をやり直し、島田孝一が公選総長第一号となった。このような経験に鑑みて、前以て総長候補者を選定する必要性や、総長選挙人の資格と範囲の拡大が常に議論されるようになる。

 一方、理事に関しては、維持員会において七名以内を互選していたのを改めて、総長以外の六名以内の理事が維持員会で選任されることになった。これにより、維持員の資格を持たない理事の生れる道が開かれたのである。理事の立場も、旧校規では「維持員会ノ決議ニ基キ一切ノ経営ニ任ズ」とあったのが新校規では「理事ハ本大学経営ノ一切ノ責ニ任ズ」と改められ、大学経営の主体であることが明文化された。既に置かれていた常務理事が新校規では「総長ハ維持員会ノ承認ヲ経テ理事中ヨリ一名又ハ数名ノ常務理事ヲ嘱任スルコトヲ得」との規定を与えられ、総長職務の代行規定も盛り込まれた。監事二名以内が維持員会で互選される規定は新旧校規で変らないが、その職務である財産状況および理事業務執行状況の監査が新校規に初めて明確化された。

 維持員三十五名以内の選出区分には大きく手が加えられた。これまで維持員会が功労者中から推薦した十三名以内と評議員会が評議員中から選出した二十二名以内から成っていたものが、このたびは前者を廃止して、維持員はすべて評議員会を選出母体とし、学内者を二十名以内、学外者を十五名以内とするように改められたのである。維持員会に関しては、「理事ハ維持員会ニ出席シ意見ヲ述ブルコトヲ得」との規定が新設された。理事の経営責任の明確化に伴い、法人の最高議決機関たる維持員会との密接な意志疎通を確保しようとしたのであろう。

 評議員の選出区分は大幅に改定された。これまで筆頭の位置にあった「名誉教職員若干名」が廃されたほか、各学部、付属学校および付属機関の長が外され、主事会選出の十名以内の職員が加えられることになった。評議員会が維持員会の完全な選出母体となったことを承けて、維持員選挙の方法も詳細な内容に改められた。旧規定では十一名連記無記名投票により投票者十分の一以上の得票を得た評議員が維持員に選出されたが、新規定では学内と学外の区分に分け、それぞれにつき設けられる若干名の特別銓衡委員が選定した維持員候補者の中から、学内評議員は十名以上の、学外評議員は八名以上の連記無記名投票を行い、有効投票者数の十分の一以上の得票者を当選としたのである。評議員会には、「其ノ決議ヲ以テ大学ニ建議ヲ為ス」権限、すなわち大学への建議権が新たに付与された。これまでは報告の承認と諮問事項についての決議をなすといういわば受け身の立場に置かれていたことを省みれば、大幅な権限強化と言えよう。

 また、「設立者侯爵大隈重信ノ家督相続人」を推戴すべきものとされていた名誉総長についても、新校規ではその制限を撤廃して「維持員会ノ議ヲ経テ」推挙できるようになった。大学解散時における残余財産の処分に関し、旧校規では「設立者家督相続人ノ同意ヲ得」ることが必要であったが、これも大隈家からの影響を避けるという趣旨から削除され、維持員会の決議だけで処分できるようになった。

 昭和二十二年、「教育基本法」と「学校教育法」が制定・施行され、公教育はいわゆる旧制から新制へと移行した。戦後の教育方針の基底を定めた両法の趣旨に則って、二十四年には学苑の校規も改正された。この時の改正では、総長が理事長を兼ねることが初めて明文化され、併せて理事会の権限・責務・運営方法が明確化された。すなわち新校規の第十条に、「一、理事は理事会を組織し、本大学の校務を執行し、且つ本大学経営の責に任ずるものとする。二、総長は、理事長として理事会を招集し、その議長となる。三、理事会は、三分の二以上の理事の出席がなければこれを開くことができない。四、理事会の決議は、出席した理事の過半数による」と定めた如くである。常務理事に関し、新たに「数名の常務理事があるときは、その分担する事務の範囲及び前項の規定〔総長職務の代行規定〕によって総長の職務を行う者は、総長がこれを定める」とし、ここに初めて業務担当理事制度が打ち出された。更に、「常務理事でない理事を指名して、臨時に総長の職務を代理させる」道も開かれた。